重層的非決定?

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2009年05月05日

■ ハッピーエンドだ。さあ、喜べ!

今まで見た演劇舞台の中で一番しっくり来たかな。何というか大学時代の文化を思い出すというか。

といっても、大学時代に舞台にかぶれたとかそういうことはない。ただ大学内にその世界ではそれなりに有名な前衛舞台のメッカみたいなのがあったりして、そういう空気はそれなりに嗅いでいた、というぐらい。しかしそういう空気感というのは不思議なもので、この劇が始まってまもなく、スクリーンに新聞のコラージュが映し出される演出を見た途端、一気にそういうモードに入っていけた。さらに舞台を見ている客席をモノトーンでスクリーンに映し出す。見ている「私」を客観視せよというメッセージか。

ある種の舞台というのは、多分(ストーリーとは別の)メタメッセージが伝わるか否かに勝負を賭けている(強いていえばトゥーランドットとかシンデレラは「愛」の力とかそんなの。まあこれはメタメッセージという感じでもないが)。そしてこの三文オペラの発するメタメッセージとは、もちろん資本主義・拝金主義批判というのもあるだろうが、それ以上に、演じられる舞台と見る観客との予定調和な関係を崩すこと、そこに力点を置いているように感じた。

たとえば、コンサートなどでの客席は常に一体感があって、そして目の前のライブは常に「最高!」といい、目の前にいる歌い手、グループのパフォーマンスなど見ていなくても、その歌い手、グループへの愛を語るその予定調和的な語り。その一方で愛とやらを持ちきれていないグループ、メンバーのパフォーマンスへは小姑のようなケチをつける。欠落しているのは、ステージを見ている観客自身に対する批評精神。「内輪」でお約束となっている感動を再認する儀式。結論はステージを見る前に決まっている。そんなステージ鑑賞態度。ドラマで登場人物の死を見せて、「さあ、泣け!」。そんな空疎なお約束の儀式の反復。

三文オペラでは有名なラストシーン。お前たちはハッピーエンドに終われば満足なのだろうと言い放って、何の脈絡もなく、無理からにハッピーエンドに持って行く。このシーンがこうしたお約束を笑いものにしているのは明白だが、そのシーンに演出家宮本亜門はキティちゃんのお面を用意した。

キティちゃんは実はここが初出ではない。安倍なつみ演じる、いかにもイマドキの、ちょっとイカれた女の子ポリーがキティちゃんバッチをじゃらじゃら衣装に付けている。

まさにこのキティちゃんこそが空疎さのイコンに他ならない。ただひたすら軽薄で、リアルな顔を持たない存在。ポリーはその代表的存在だが、登場人物ことごとくがそうなのだ。主人公メッキ・メッサーを裏切る娼婦は、最初の裏切りの時にはその苦悩を語ってみせるが、二度目も、ほとんど何の必然性もなく、裏切る。登場人物ことごとくがそんな具合で、観客は結局のところ悪人の主役メッキ・メッサーに仮託してストーリーを見守ることになる。彼のみがストーリーの中で確かな実在感・存在感をもっているからだ。

しかしそれが前述のラストシーンで見事に裏切られる。まもなく処刑されるというその緊迫感の中で、唐突に女王陛下の恩赦が下り、さらにあらんことかメッキ・メッサーは貴族に叙せられる。ハッピーハッピー。

そのときのどんちゃん騒ぎの中でキティちゃんのお面をつけた人がぞろぞろ出てきて、踊り狂うのだ。メッキ・メッサーの恩赦を祝して。もちろん踊り狂うかれらには顔はない。感情はない。ただハッピーエンドであるが故にかれらはそれを言祝ぎ、踊り狂うのだ。「さあ、ハッピーエンドだ。者ども、喜べ!」。

安倍なつみについては言うことはあまりない。とにかく薄っぺらで、うざくて、可愛らしい小悪魔=天使っぷりを遺憾なく発揮していた。外向けの演技ではこれまでちょっと気の強いひたむきな女の子ばかりを演じてきた安倍なつみだったが、ようやく「なっち」の本領発揮というところ。ハロプロファン的にはハロモニやら、2006年ぐらいにテレビ東京深夜枠で放送されていたコメディドラマ「絵流田4丁目の人々」あたりで既になじみではあったが。

ちなみにこの舞台、東京公演にモーニング娘。メンバーの高橋愛、新垣里沙、亀井絵里、光井愛佳、リンリンが見に来ていたというレポートがある。歌詞の中に「おまんこ」がどうとか、セリフの中に「下の口ではなくて、上の口にものを入れろ」だとか、そんなこんなのシーン満載のこの舞台、他のメンバーはともかく光井愛佳に見せてもよかったのかなあ。


隣の大ホールで行われていたモーニング娘。コンサートで愛ちゃんこと高橋愛が安倍なつみのことを話題に出したらしい。安倍さんの方から電話してきて、差し入れ、何がいい?と聞いてきたので、「たこ焼き」と答えたら、直接持ってきてくれた、とか何とか。

愛ちゃんのなっち話、直接聞きたかったよ。今日(5月5日)、娘。コンに入って明日三文オペラに行けばよかった、かな。

投稿者 althusser : 2009年05月05日 23:02

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