重層的非決定?

« 2010年04月 | メイン | 2010年09月 »

2010年05月03日

■ ガキ亀さゆ

今ツアーでの高橋愛以外のメンバーの印象をつらつらと。といっても例によって高橋愛ばかり見ていたので、たまたま目についたメンバーについてだけ。触れられないメンバーは関心がないわけではなく、たまたま。私のライブ鑑賞辞書に「公平」「客観」という文字はない。

道重さゆみ。メンバーでは珍しい黒髪。長く伸ばしたその黒髪をたなびかせて踊る姿は実にかっこいい。可愛いというよりもかっこいい。なんということだ。

化粧も他メンバーと比べてナチュラルメイクに見える。それだけに幼くも見えるのだが、その顔の幼さと、そして踊りのどこかしらぎこちなさが、しかしなぜか未熟さではなく、かっこよさに転化するという不思議。特に「大きな瞳」でのパフォーマンスには目を奪われる。

またこの人は確かに高橋愛のフォロワーなのだ、とも思わされた。曲中の表情の作り方。高橋愛と並んで、曲ごとに表情を作ろうとしている。その曲の登場人物になりきろうとしている。今のところメンバーでそれをやっているのは高橋愛と二人だけ。

バラエティの道重さゆみしか見ていない人には、是非ライブでの道重さゆみを見てもらいたいと思った。とてもストイックにがむしゃらに、ステージパフォーマンスに賭けている姿が見られる。

亀井絵里。彼女のキャラに合わせて、これまでに提供されたソロ曲などはほわっとしたかわいらしいものが多かった。私はそれを残念に思ってきた。しかし今ツアーでの亀井絵里の歌声には渋さがある。低音をどっしり響かせる。元々定評あるダンスは、運動神経を生かしてダイナミック。でもMCになれば、またいつものぼけぼけの亀ちゃん。この落差、それがいい。

新垣里沙。最大の見せ場、というより聞かせどころは高橋愛とのデュエット曲「あの日に戻りたい」。

この曲は二人の声質の違い、そしてそれも含めて表現される世界の微妙なずれのようなものがおもしろい。題名のごとく過去の恋愛を振り返る歌。高橋愛はみずみずしく透明感あふれる声でしっとりと歌う。いまだに相手への思いがリアルに生きており、その相手へかつてと同じように甘えたい気持ちも残っている。まだ「女の子」をしている。過去と、そして今も生きている「恋」の歌。

一方新垣里沙は少し乾いた声。じっくりと自らに語りかけるように歌う。過去の自分への後悔の感情、相手への思いはもはや「恋」としては生きていない。それをできなくしたのは自分の振るまい。それを受け止めつつ、なお相手へのつきることない思い。恋が終わった後の「愛」の歌。

しかしそれでは終わらない。「春だよというのに、震えてる私」のところで突然強い感情が発露され、何とも言えない艶っぽさが出る。かつての、相手に甘えられていた「女」としての弱い部分が隠しきれなくなったような。

新垣里沙の歌は声量音程とも申し分なく、また包み込むような優しさにあふれた表現力も秀でていた。ただ一点、艶っぽさだけがあまりない、と思っていた。しかしこの曲の、一瞬の、しかしにじみ出るようなこの艶やかさ。これだ、と思った。

安倍なつみ。まさに安倍なつみと同質の表現をこの曲の新垣里沙の歌唱から感じ取った。力強さと弱さと、人間愛と切ない恋心と。高橋愛のエロさと可愛さとはまた違ったベクトルのこの落差をこそ私が新垣里沙に求めていたものだった。

もっと新垣里沙の歌を聴きたい、と思った。たとえば「Loving you Forever」を新垣里沙ソロで聞けたらどんなによいだろうとも思った。バックの音がいまいちな娘。コンではなくて、生演奏で、大胆なストリングスの音色が混じるアレンジで、新垣里沙の歌を聴けたらどんなにすばらしいだろう。

それを思い出すと、「音」の部分では今の娘。コンではやはり何とも物足りなく感じてきた。もっと贅沢な音の世界に耽溺したい。娘。コンは視覚的にはすばらしい。でもそれだけでは満たされないものが絶対的に残っている。ああ、なっちライブに行きたい、と思考はあらぬ方向に向かってしまった。簡素な舞台装置、衣装もシンプル、なのに終わってみればおなかいっぱい、この感覚は今の娘。コンでは味わえないものだ。そして新垣里沙ソロライブがあれば、なっちコンと同様のこの感覚が味わえるのではないか、と思ったのだ。


きわめて蛇足ながら、高橋愛ソロライブがあれば、満足感・満腹感ではなく、一層の飢餓感を煽られることになるだろう。それもまた一興。

■ 生まれついての舞台人

しつこく引っ張る。今回ツアー冒頭の全身ピンクにウサギ耳の衣装。同い年の松浦亜弥が着ている姿なんて想像もつかない。それを当たり前のように着こなす高橋愛。そんな衣装を着ることに何か思うことはなかったのだろうかと思っていた。

どうやらあったらしい。

といっても、元々は何とも思っていなかった(ようだ)。ところが地元公演で中学時代の友人と楽屋であった際、「高橋、マジ?」と突っ込まれ、とたんに「大丈夫なのかな?」と心配に。

しかしステージに立って、客から声援を受けて、大丈夫なのだと再確認。

表現者、舞台人としてはとにもかくにも前向き。(年齢的に)可愛すぎる衣装も、逆にエロい衣装も、全部ノリノリ。しかしプライベートで親しい人から突っ込まれるととたんに個人としての感覚が目を覚ます。元来のシャイな部分が出てくる。目立つのが苦手、自分をさらけ出すのがきらい。

しかしまた舞台に立てば、一気に自信を取り戻し、表現者としての自分を最大限に見せびらかすことに余念がない。

この人は、そういう場面になれば、キスシーンだって、ヌードだって、何だってやれる人だと思う。アップフロントにいる限り、キスシーン止まりで、ヌードになることはないと思うが。それを残念と思うか、よかったと思うかは人それぞれ。私個人は高橋愛本人がノリノリでやる限りはなんだってあり、だが、どうしても裸を見たいというわけでもない、ということもない、わけでもない。

■ 深淵

ライブやらメンバーのブログ写真やらを見ていて、ますます高橋愛という人がわからなくなってきた。

ライブ冒頭のピンク衣装にウサギ耳、きょとんとした表情は幼ささえ感じさせる可愛い可愛い女の子。

衣装替えの後の露出度の高い衣装で登場して、ちょっとエロ目のダンスを踊る姿は妖艶に成熟した大人の女性。表情の作り方から、腰の振り方から、一切手抜きなし。歌パートじゃないところのダンスの全力っぷりがすごい。

ライブ終盤、Tシャツにジーンズ姿、ステージ狭しと駆け回り、スタンドマイクを抱えて歌ったり、田中れいなとふざけたふりをしたり姿・表情はいたずらっ子な少年のよう。メンバーブログに掲載されているメンバーとふざけている姿もまたいたずら少年の顔。元気いっぱいの少年。

MCでまた噛んだりしないだろうかとすこしおどついたり、少し口を滑らしてへこんだりしている様はナイーブな少年の姿。気の弱い、傷つきやすい少年。

これまたメンバーブログに掲載されたライブが終わって髪を乾かしている姿。片足を上げてくるぶし丸出し、長い髪を豪快にかき上げる姿は捌けた大人の女性にも見えるが、どこかおっさんの姿にも見える。

リラックスしているときに出る、訛りの抜けない、そして少し口の悪いしゃべりは完全におっさんが入っている。いっぱい引っかけた田舎のおっさん。

ステージに立つと恥ずかしげもなく、露出度の高い衣装にエロティックな激しい踊りを挑発的に披露する威風堂々たるパフォーマーでありつつ、自分語りの場面になるととたんに少し早口になり、シャイな性格が丸出しになる。

いったいこの人は何なのだろう。老若男女、何個の人格を持っているのだろう。

全くわからない。

■ モーニング娘。コンサートツアー2010 春〜ピカッピカッ!〜

滋賀、福井、そして神戸2日、全日昼夜合計8公演。モーニング娘。コンサートツアーで8公演参加は自己最多。前回秋ツアーは4公演だったから一気に倍。諸々の日程の都合でたまたまそうなっただけだが。とりあえず見るべきものは見たという気にはなった。

娘。コンの客層が変わってきている、と一部界隈で話題になっている。女性が増えた、若者が増えた、というのは多少なりともその通りかなと思うところで、私のイメージの中の「ハロプロコン」の客層よりも松浦亜弥コンサートの客層に近い感じになっている。しかしそれ以上に思うのが「変なの」がだいぶん減ったなということ。「変なの」というのは、ゴミをところ構わずまき散らす、周り(コンサートの客以外の人)の迷惑を一切顧みない言動を行う、ライブ中に私語をする、そういうのが消えたとは言えないが、少なくなった。

ライブ全体の構成としてはいろいろ不満もある(PV垂れ流しコーナーは何がやりたいのかわからない、とか、「雨の降らない星では愛せないだろう」中国語バージョン披露は前回もやったしもういいんじゃないか、とか)けれども、「愛して愛してあと一分」から始まる「情熱的なナンバー」が続くコーナーがよかったし、新アルバム曲中心のライブとしては及第点というところ。ライブ後半は盛り上がり曲連発で、歌としての聞かせどころは少し寂しいところだが、その分ダンスでのメンバーのはじけ方がすごい。おのおの思い思いに自由に暴れているようで、しかしきちんと統制がとれている。総じて2008年秋−2009年春の少し重い目のライブイメージに比べて、前回今回とまた明るく元気なイメージに復したようだ。私の好みとは少しずれてはいるが、これはこれで悪くはない。

中盤の「期」別のコーナー。5期曲については別途書くとして、続く8期曲「大阪 美味いねん」と6期曲「.大きい瞳」の会場の盛り上がりの差はちょっと残念。「大阪 美味いねん」はせめて関西圏では盛り上がってもらいたいものだが、なかなかそうも行かず。それでも「大阪」が始まった段階ではまずまず盛り上がってるな、と思うのだが、続く「大きい瞳」に入ると「本当の盛り上がり」のなんたるかを思い知らされるという。客席側の音量が二段階ぐらい上がった感じ。「真打ち登場」みたいな雰囲気で、前曲は何だったのか、と思わされてしまう。「大きい瞳」は曲としては「凡庸」なアイドル曲なのだが、歌っているメンバー一人一人の良さがうまく出ているし、見ていて楽しいパフォーマンスであることは間違いない。曲の凡庸さがかえってメンバーを引き立てている、というのか。「大阪 美味いねん」はまさにつんく♂ロックなのだが、好き嫌いの分かれそうな曲だし、光井愛佳のシャウトとかメンバーの見せ場はあるのだが、リンリンの歌唱力が少しもてあまし気味なのは惜しい。

と、あれこれ書いてきたが、ライブ冒頭のピンク衣装にウサギ耳の「可愛い」高橋愛と、その次の露出度の高い衣装で歌う「愛して愛してあと一分」、その曲でのステージに寝そべるエロい高橋愛で満足しきっていたのであった。逆に言うとライブ序盤に最大の(個人的)盛り上がりどころが来てしまうのが本ライブ最大の難点かもしれない。