2006年08月18日
■ リボンの騎士
モーニング娘。ミュージカル「リボンの騎士」を観た。
正直これまでミュージカルというのは余り興味を持ってはいなかった。ミュージカルを観るぐらいならコンサートを観る方がずっと価値があると思っていたし、実際これまでミュージカルを観たこともなかった。
今回観にいこうと思ったのはただただ高橋愛が主演で、しかも彼女があこがれ続けてきた宝塚歌劇団の協力を得たミュージカルということで、高橋愛にとって一世一代の舞台であろうと思ったからだ。早い話、私はミュージカルを観にいったのではなくて、高橋愛を観にいったのだ。
しかし見終わった後、「ここのところのこういう展開は気にくわないな」などと思っていった。出演者を観にいったつもりが、しっかりと出演者が作り出した世界を堪能していた。私は高橋愛ではなくて、確かにミュージカルを観ていたのだ。
物語の筋書きはどうあれ、そうした中にある私にとっては瑕疵と思える部分などがささやかなものとしてしか思えないぐらい、ミュージカル全体はよかった。映画やドラマは結局のところ筋書きに納得がいかないと本質的な満足は得られないのだが、今回のミュージカルはそうではなかった。歌の美しさ、それによって紡ぎ出される世界の美しさに十分満足できた。声の重なり、初期モーニング娘。が志向していたものが再び見事に再現されたというところに、モーニング娘。の精神が脈々と受け継がれていたことを改めて感じられた。
演出もよかった。脇役は脇役でしかないものだと何となく思っていたが、出演者全員に各々見せ場がしっかりあった。そして各々のよき部分がしっかり引き出されていた。特にモーニング娘。最後の仕事となる小川麻琴がコンサートではなくて、ミュージカルの「脇役」としてその仕事を終えることに当初何とも言えないもどかしさを感じたものだったが、今は彼女のモーニング娘。最後の仕事を飾るにふさわしいものだったと思っている。悪役なのだが、コミカルでどこか抜けていて、憎めない人物で、それがひょうきんで可愛い彼女の魅力を十分に引き出せていた。モーニング娘。の歌で目立つ場面が余り与えられていない彼女にとって、むしろこのミュージカルの方が彼女の魅力を感じる上でよかったのではないか、とさえ思える。
神や王を演じるえびらさんは限りなく荘厳、王妃演じるマルシアさんの歌は「ふりむけばヨコハマ」以来久々に聞いた。ずっとテレビのバラエティなどでしか観ていなかったので、久々に歌を聴けて嬉しかった。
ゲストが演じるということで、顔見せ程度のものだろうと思っていたフランツ王子は思いの外、見せ場が多かった。準主役だったのか。私が観た回は松浦亜弥さんだったのだが、全くゲストという感覚を持たされることもなく、ごくごく自然にフランツ王子としてみられた。後で台本を読み返してみても、松浦フランツの顔しか浮かんでこない。とりあえずもともと性格的に男っぽい松浦亜弥には非常に合った役どころだったという気もする。そしてまたこれほど見せ場があるのであれば、やはり安倍なつみの演じるフランツも観ておくべきだったか、と改めて思ったりもする。
もっとも印象に残ったのは、他の人たちとの感想と重なるが、藤本美貴演じる魔女へケート(通称ヘケティ)。モーニング娘。ファンの間で認知されている藤本美貴のキャラクターと何とも言えない重なりを見せる。表面的には怖いが、その一方で人の情を求めて止まない寂しがり。自らに与えられた運命を上手く受け止め、楽しみつつも、こころの奥底にはそれに抵抗する強い意志。魔女の持つ意地悪さと悲しみを実に見事に表現していた。
唯一私にとって残念だったのは物語の結末である。高橋愛演じる男女二つの魂を持った主人公サファイアが、それまでずっと運命に抗い、自らの将来を切り開こうとしていたのに、最後になって、ただの「女」としてフランツの求愛を受け入れ、あっさりフランツ王子に国全体の命運をそのまま預けてしまう。いくら口先で男女が平等だと歌ってみても、結局ここで描かれている世界は夫唱婦随の世界ではないか。やはりサファイアには自ら大臣と対決し、シルバーランドの女王として歩んでもらいたかった。おそらく「女の幸せ」=結婚というのとは違った人生設計を描いているであろう(あるいはそうであって欲しいと私が願っている)高橋愛にはそういうサファイアをこそ演じてもらいたかった。それでは原作と話が違ってしまいすぎる?些細なことだ。
しかし、このミュージカルは話の筋書きをどうこう言うべきものではないのだろう。登場人物の背負う運命や役割や感情を演技や歌でいかに表現し得ているか、そうした意味では文句のない仕上がりであった。このミュージカルがモーニング娘。最高の仕事というほど私はモーニング娘。の仕事を観ているわけではないが、しかしミュージカルの中ではこの「リボンの騎士」が最高だ。生まれて初めてミュージカルを見た私が断言するのだから、間違いない。
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