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2005年08月29日
■ 口だけファシズム
朝日新聞夕刊のコラムより。
・・・これまでの批判への反動もあって、「ヒトラーは悪いことばかりしたわけではない」という視点さえもが発言力を持つようになったのである。・・・言論弾圧や反対派への暴力というイメージで思い描かれてきたヒトラー・ドイツの日常は、自発性を発揮しながら主体的に生きる生活の場だったのだ。これはまぎれもない事実である。
だが、日々の生活に充実を見いだしていたとき、国民は、すぐ近くの強制収容所をも、着々と進む戦争の準備をも、見ようとしなかった。抹殺されていく生命よりも平和よりも、信念ある指導者が与えてくれる生き甲斐の方が、彼らには大切だったのだ。
「心の風景」池田浩士
己の実感を欠いた欺瞞であれ、絶対に守られなければならない価値というものがある。価値相対主義者の陥る一つの帰結としての「実感」・「本音」への崇拝が蔓延する今の日本の言説状況において何とも示唆的な話ではないか。「戦前への回帰」よりもむしろここで描かれている状況の方に警戒感を持つ。もちろんナチスドイツのファシズムが今の日本に再現するなどとは思っていない。ただ「口先のソフトなファシズム」と呼ぶべき状況は芽生えているし、口先で強制収容所を作ることは出来ないが、口先で人の精神を葬ることは出来るのである。
投稿者 althusser : 2005年08月29日 00:00
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