重層的非決定?

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2007年11月10日

■ エグゼクティブパス

ハロープロジェクトのファンクラブに関するある新サービスがファンの間で波紋を呼んでいる。もっとも私はファンクラブ会員ですらないので、完全な部外者、正直どうでも良いのだが、議論を読んでいて少し興味がわいた。いったい何故これほどまでに波紋を呼んでしまったのか。

新サービスの名は「エグゼクティブパス」。クレジットカード発行を条件とするSP会員限定サービス。募集人数300人。お値段は一年間で6万3千円。

それでどんなサービスが受けられるかというと、1年に1回コンサートでの特別席ご招待、それとは別にコンサートバックヤードご招待、好きなメンバーとの2shot写真を進呈、その他諸々。

問題となっているのはまず値段。6万3千円が高すぎる、いや逆に安すぎる、という意見も出たりする。高すぎる、というのは要するに「お金持ち」しかそのサービスが受けられない、けしからん、というもの。「エグゼクティブ」パスという名称がまた格差感を煽ったのかもしれない。一方安すぎる、というのは募集人員との絡みで、応募はしたいが、抽選漏れが多発するだろうことを懸念する立場。この値段でこのサービスなら是非受けたいが、抽選漏れするのは我慢ならん、と。

このようにまとめると、実にくだらない、自分勝手な批判だ、という印象になってしまうが、そうとも言い切れない。「高すぎる」という意見はたとえば特別席だとかバックヤード招待だとかは本来小学生ファンこそが受けられて良いサービスだ、という主張にも繋がる。確かにそういうサービスだったら、ずいぶん感じの良いサービスに聞こえたろう。しかし実体は小学生はおろか、(クレジットカード会員を前提としているため)学生ファンをも排除したものになってしまった。それはおかしい、というもの。一方「安すぎる」というのは批判としては確かにたいしたものではない、どちらかというと「高すぎる」という批判を揶揄する意味合いが大きいという気もする。抽選は何だってあるのだから。ただ感覚的には私も「安い」とは思ってしまう。6万3千円で上記サービスが受けられるから金払えと言われたら財布のひもをゆるめそうな感じ。私も相当金銭感覚を狂わされているな、反省。

しかし真に問題になっているのはそういうことではないのだろう。「コンサートバックヤードご招待」、これがいけなかった。コンサートの舞台裏に招待されて、好きなメンバーと(たぶん)握手をして、2shot写真を撮ってもらえる。「エグゼクティブパス」所有者だけが。

ちょっと考えるとこの批判も的外れなように思える。それまでもFCでは海外ファンクラブツアーを開催し、そこでは握手も2shot写真もやってきた。ファンクラブ向けディナーショーも同じだ。もちろん高額のお金を払ったファンに対するサービスだ。そしてそれは特段には批判の対象とはならなかった。今回のサービスのそれと同じようなものではないか。お金を払ってサービスを受けられる、何が問題なのか。

しかしやはり海外ツアーなどとは違うのだと思う。問題はサービス対象が、一般ファンも参加する普通のコンサートにおけるものだ、ということだ。海外ツアーなどはいわば隔離された空間におけるサービスだ。それに関わるファンと関わらないファンは完全に分離されている。お金を払ったファンに対してその空間は作られ、そしてそれに見合ったサービスを受ける。参加しないものはその空間とは基本的には無関係だ。

一方、今回のサービスはそうではない。コンサートは、座席の差はあれども、参加者みなが一つの空間を共有し、それぞれの思い(妄想を含む)を持つ場だ。コンサートが終わる。会場をあとにしながら、一仕事終わったメンバーの「今」を思いやるファンも多かろう。そしてメンバー同士、スタッフも交えて「お疲れ様」などと挨拶をしている姿を想像しながら、心の中で「お疲れ様」と声をかけるファンもいるだろう。会場ではメンバーと一緒に踊り、唄い、そしてコンサートが終われば、心の中でメンバーに対して労をねぎらう、そうしてメンバーと一体感を持つ、そういう楽しみ方をするファンは少なくないだろう。

今回のサービスはその「一体感」を破壊してしまうのだ。コンサートが終わる。自分は会場をあとにする、しかしあとには「エグゼクティブパス」をもったファンが残り、メンバーと歓談をしている(かもしれない)。この疎外感、それはメンバーとの(妄想の中の)幸せな一体感を切り裂くものだ。もしこのサービス対象が「小学生限定」だったら、楽しい妄想を持ち続けることも出来たろうが。

メンバーとの「一体感」に価値を見いだしてコンサートに行くファンからすれば、今回の新サービスが許容しがたいものになる、というのは無理からぬことだと私には思える。実際この一件を聴いてFC会員を辞めるという者、さらにはハロプロを応援するモチベーション自体が下がったという者がブログ界隈を見ていてもかなり目につく。公正に見てもやはり事務所はしくじったのだと思う。

事務所は何を間違ったのか。ファンの妄想力の重要性を軽視したことだ。

投稿者 althusser : 2007年11月10日 12:29

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