重層的非決定?

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2006年03月05日

■ ふるさと

Gyaoで放送中のハロプロアワーで安倍なつみと高橋愛が歌った「ふるさと」を聞いて、まだまだ語り足りないものを感じている。正直自分でも驚いた。安倍なつみと高橋愛のセッション、もちろん期待するものはとても大きかった。しかしその期待をはるかに上回る「ふるさと」を聞けた。単に私の安倍なつみと高橋愛への思い入れを足しただけでは足りないものがある。それは何なのだろう。

これまた正直に白状すると、私は「ふるさと」という曲をこれまで、他の安倍ファンと比べて、それほど評価してこなかった。同時期の安倍実質ソロ曲でいえば「せんこう花火」の方が好きだったし、同時期の娘。のシングル曲としては「Memory 青春の光」とか「真夏の光線」の方が好きだった。安倍卒業後のソロの曲としても「ひとりぼっち」「空 LIFE GOES ON」の方が好きだった。

「ふるさと」が娘。のコンサートで復活し、それを高橋愛と新垣里沙が歌ったとき、ちょっとした諍いが起こった。「安倍なつみの」「ふるさと」を他のメンバーが歌う、ということに対する安倍ファンの拒絶反応が諍いを招いたのだ*1。しかしそのときも私は冷めていた。「ふるさと」よりも何よりも高橋愛のソロが聴ける、ということに私は関心を持ったし、さらにいえばその曲は「ふるさと」ではない別の曲の方がもっとよかったのに、とさえ思った(たとえば「Memory 青春の光」)。

はたしてDVDになった高橋愛の「ふるさと」を私はいそいそと聞いたのだが、しかしそれは私の期待に見合うものではなかった。高橋愛のソロ、というのに私は多大な期待をしてしまっていたのだろう、想像していたよりも声の伸びがなく、期待していた堂々たる高橋愛の歌声が聞かれなかった。そしてそれは高橋愛への落胆ではなく、「ふるさと」という曲の「いまいちつまらない曲」という私の評価を再認することに繋がった(そして期待していた高橋愛の最高のパフォーマンスはその後、タンポポの「ラストキッス」によって実現された)。

そしてGyaoの放送。二人で「ふるさと」を歌ったらしい、というのは知っていた。安倍さんは冒頭で「たからもの」を歌うのだから、最後に歌うのは高橋さんサイドの曲の方が面白かったのに、と思った(例えば「大阪 恋の歌」)。それでも私にとって最高の歌い手二人の共演、期待は十分に高かった。

出だしを歌うのは高橋愛。やや不安定な立ち上がり。前に聞いたときとほぼ同じ印象。「ちょっと緊張しているのかな」。それを受けて安倍なつみ。じっくりと語りかけるような、とても落ち着いた歌い様。求めていたものを得られた気がして、とても安心する。

さらにそれを受けて再び高橋愛。落ち着きを取り戻して、透明感のある歌声が響く。そしてその透明感のある声が、都会で一生懸命日々の生活を送る不安感をとても上手く表現できている。歌の世界としての不安感。まさに「ふるさと」という曲が描き出そうとしている世界。1999年の安倍なつみが表現しようとしていた世界、それを高橋愛は見事に表現していた。

そしてこの高橋のパートを受けた安倍なつみの歌を聴いて、私は「ふるさと」という曲が名曲なのだと遅ればせながらに感じた。安倍なつみソロの「ふるさと」を何回も聞き、高橋愛ソロの「ふるさと」を何回も聞いたときには分からなかった「ふるさと」のすばらしさが、この二人のセッションで初めて理解できた。そして高橋愛を通じて、安倍なつみの歌手としての力を再認した。

安倍なつみの描く「ふるさと」の世界は、歌詞の世界の、高橋の歌う世界の、1999年の安倍なつみが歌った世界の「ふるさと」とは別のものだ。安倍なつみは東京にいるのではなくて、「ふるさと」にいるのだ。安倍なつみは都会から遠く離れた「ふるさと」にいて、東京にいる娘を想って歌っているのだ。安倍なつみの歌う「ふるさと」はすべてを受け止める絶対的安心の世界だ。

私がこれまで聞いて、私がこれまで理解していた「ふるさと」の世界は一方向のものだった。しかし二人の歌う「ふるさと」は遠い空間を挟んで、コミュニケーションが成立している。二人の歌う世界は同じものではない。なのに最後、二人の声が重なるところは見事に一つの世界に重なる。安倍なつみと高橋愛の「ふるさと」は母と娘の二人の歌だったのだ。

6年以上の月日を経て、私の中の「ふるさと」の奏でる世界は完結した。不安と安心の対立は止揚された。もちろん娘は母の元に返るのではない。一人力強く東京で生きていくのだろう。

*1:私はそういうこだわりは持たないが、しかしそういう感情自体は普通にあり得べき感情であって、それをいちいち捉えて安倍さんとそのファンを中傷した輩のことは私は未だに許していない

投稿者 althusser : 2006年03月05日 00:00

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